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小学生に教えるフーリエ変換

■ 数年前(平成21年ごろ)から、フーリエ変換・級数の本質を小学生に教えたいとずーっと思っていました。ようやく念願かなって先週の土曜日(3/31)に実現しました。何故小学生にそんな難しいテーマを、と思われるかもしれません。そもそもの動機や内容、感想などについてまとめておきます。先に結論を書いておくと、このテーマを小学生に教えようとするプロセスによって、教育や研究に関する考え方が大きく変わりました。具体的には、
  1. 日常の現象と結びつけて教えることで、メンタルモデルから変えられる
  2. whatとwhyを考えることで、研究だけに限らず、広い意味で問題解決を図る時の駆動力(driver)となる
  3. 受講者の反応によって講義は大きく変わる
ことが分かったことが大きな収穫でした。

使った資料(PDFファイル)とiPad用のプログラム(HTML5+JavaScript+CSS)も公開しておきます。iPad以外では表示がずれてしまうのですが...

■ フーリエ変換とは?
フーリエ変換(級数)をざっくり説明すると、
任意の関数は様々な周波数(周期)の三角関数の線形結合で表現できる
というものです。物理の言葉でいえば、
任意の波は様々な周波数の波の重ね合せで表現できる(重ね合せの原理)
ということで、虹やプリズムで個々の周波数の波を別々の色として見ることができます。理解するためには、三角関数はもちろん、積分や複素数なども知識も必要で、理系の学部2、3年くらいで習う内容です。
 
「これを小学生に話したい!」と思った最初の理由は、日常的な現象として体験するため、題材として面白いからです。上述の虹やプリズムもそうですし、音も周波数と関係が深い現象で、最近ではイコライザーのように視覚化もできます。つまり、日常的によく見る現象と結びつけられるので、印象に強く残ると期待できます。

■「フーリエ変換とは○○」である。
しかし、これだけではまだ小学生とは結びつきません。「データ科学」という講義で使うことにした、ある教科書との出会いがあって、小学生にも教えられるかも、と直観的に感じたのです。教科書を紹介する前に、小学生に難しい理論を説明しようと思うときに必要なことを考えてみると、複雑な数式などが使えない分、本質は何かを考え、本質を伝えるようにしないといけません。つまり、「フーリエ変換とは○○だよ」の○○の部分に、小学生が知っている言葉を使って説明しないといけません。

さて、講義のために、数学、物理、工学、画像処理など様々な分野の教科書を数多く見てきましたが、どれも出発点がフーリエ変換であり、これをどう説明するかとなっているので、どうしても積分や三角関数などの知識が必要です。一方で、「これなら分かる応用数学教室(金谷 健一、共立出版) 」は、フーリエ変換を大きな枠組みの一部であるという高い視点で書いてあります。つまり、「フーリエ変換は何であるのか?」に応える内容になっています。このような観点で書いてあるのはこの教科書を含めて2冊(最後に紹介します)しかありませんでした。
 
「フーリエ変換は○○である」というのは汎化であり、抽象度があがればあがるほど不正確になりますが、他の視点で見ることができます。例えば、「フーリエ変換は理論である」くらいに言うと、理論つながりで他の理論と一緒と見ることができます。逆に、定義通りに述べれば、正確だけどそれ自身しか説明できない、となります。
 
■ フーリエ変換は様々な平均の和である!!
さて、このようにフーリエ変換が何であるのか新しい視点を提供してくれるとはいえ、小学生にそのまま説明するのはまだ難しく、より抽象度の高い汎化が必要です。この時に影響を与えたのが「データ科学」の受講者(学生)です。
 
当ブログで何度か書いたように、「データ科学」も学生さんたちをグループに分け、ホワイトボードを使い、議論しながら講義を進めます。ある時学生さんの一人が「フーリエ変換って平均だよね」とポツリと言いました。平均の話はすでにこちらからしていたのですが、まだ「フーリエ変換は様々な粒度の平均を足したもの」という認識まで至っていなかったようです。これを聞いたときに「平均だったら小学生に話せる!!」と天啓のように閃いて、あまりに嬉しかったので、その学生さんと彼が書いたホワイトボードの内容を一緒に写真におさめました。この経験から、学生さん側の認識に影響されるという意味も含めて、授業とはコミュニケーションだなあと思いました。
 
■ 最後の工夫:ここが大事
ここまで来たら、あとは、平均の計算を体験型でさせる工夫です。すでに、フーリエ変換の本質を以下の図のような矩形関数で説明するのは2年前からやっており、高校生にもこれで説明しました。
この図を見ると、ブロックのようなもので基底ベクトルを表す基本ブロックのようなもの作り、これの組み合わせで任意の形が表現できる、というストーリーができそうです。実際に、ブロックを使って実現すれば、手を動かしながら楽しく勉強できそうですが、残念ながらまだ実現できていません。これは、負の数がはいって、正と負の打ち消しあいがうまくブロックで表現できないからです。
 
そこで、少し妥協してタブレット端末で実現することにしました。入力するブロックの形を決めると、4つの種類の平均(基底ベクトル)を計算し、これを合成することで元のブロックの形が復元できる、というものです。これで、ややこしい計算自体はiPadにやらせて、何度も確認することができます。また、単にこのような機器を使うと喜んでくれることが多いです。
 
■ で、反応は?
対象は、同じ地区の小学6年生(この4月から新中学1年生)で、11名集まりました。アンケートなどによると、ちょっと難しかったようですが、面白がってくれたのが分かります。例えば、難しい計算のところにもっと時間をとってほしかったという要望がありました。驚いたのは、まだ説明もしていないのに、ベクトル表記で計算している子がいました!!
 
■ 参考文献
最後にフーリエ変換関連で調べた教科書を紹介しておきます。外から位置づけるタイプは以下の2冊です。
上の直観的方法からは、上の矩形関数の説明に大きな影響を受けています。

これに対し、「フーリエ級数とは三角関数による線形和(重ね合せ)である」という、フーリエ級数そのものから出発するもので秀逸なのは、以下の本です。
フーリエの冒険
言語交流研究所ヒッポファミリー(2013/07)
値段:¥ 3,780

そもそも三角関数って何だろうという感じで、フーリエ級数に必要な概念を自分が納得のいくまで調べてあります。実際に自分で計算したり絵を書いたりしながら読む体験型の本です。